文字を書いてもいい

保育園の年長にもなると、ただ自由に遊ぶだけではなく規律が増えてきたり、規律を守るかどうかで厄介事が多くなってくる。今朝は、登園した子どものところへ友だちが駆けてきて、「○○○、なんで絵に文字を書いたの? 保育園ではまだ文字を書いちゃいけないんだよ!」と詰め寄ってきた。文字を書いてはいけないなんて規律は守る必要がないし、この子が取り締まることでもないのだけど、何をそんなに怒っているのだ? と思ったのだけど、幼児にその理屈を説明するのもなかなか難しい。おそらく、先生がダメだと言ったからダメなのだと思い込んでいるだけで、べつに確固とした理由があるわけではないのだろう。5秒ほど考えた結果として、その友だちに対して僕がかけた言葉は、次のようになった。

「書いてもいいんだよーだ。パパがいいって言ってるんだから、いいんだよ」

そうすると、意外にも、その友だちの表情が和らいだ。「書いてもいい」という別の価値観が持ち込まれたことが面白かったのか、あるいは僕の顔(変顔をしながら言った)が可笑しかったのかは分からない。いずれにしても緊張が解けたことは確かで、詰め寄られていた子どもの顔も緩んだのがよく分かった。理由のよく分からない規律や禁止に対して、もちろん理詰めで対抗することも有効だし、僕自身はそういう傾向があるのだけど、子どもに対しては「いいんだよ」の一言でいいのかもしれない。元より禁止が好きな子どもはいないのだから、どんどん解いていこう、と思った。

少しだけ補足の話をすると、この件については保育園の先生たちに疑念の目は向けている。保育園の公式見解としては「文字を書くことを禁止はしない」「子どもの成長段階にはまだ早いので、積極的に教えたりはしない」ということだが、現場ではまた異なるようで、たびたび子どもが「先生に書いちゃダメって言われた」と言っている。そのたびに妻が「書いてもいいんだよ、先生がそんなこと言う訳ないよ」と言うのだけれど、僕はただシンプルに「先生が嘘をついている」と思う。子どもが先生に言われたというなら、きっと、先生は言ったのだろう。そして当然ながら、先生たちの嘘は、子どもたちも見聞きしてしまうことになる。

保育園に対して期待するのは保育なので、安全に預かってさえもらえれば、あとは教育方針などに異議を唱えるつもりもない。そして先生たちもただの人間なので、嘘をつくこともあるだろうし、この件について深く追及するつもりもない。小学校に上がれば、さらに愚劣な大人が増えるのだろうし、いちいち立ち向かっている暇もない。

今後また何かあれば、他人に禁じられたものを「やっていいよ」と解いてあげたり、他人に強制されたものを「やらなくていいよ」と解いてあげる役割を果たしていこうとは考えている。いつか子どもが自分自身で「これはやる」「これはやらない」と決められるようになるまで、あと何年かはそうしようと思っている。