クールダウン

カーシェアの車を駐車場へ返し、自転車をのんびり漕いで自宅に着くまでの時間がとても心地よかった。高速道路から一般道へ降りたときのように、もう一段スピードが落ちて、そうか、この速さで走っても良かったんだっけか、なぜ俺は今まであんなスピードを、と我に返るような感覚があった。緊張が解けて、今までの自分が緊張していたことに気付く。

あるいは仕事を終えて散歩をしたり保育園の迎えに行くときなどに、似たような感覚がある。机に向かっていたときの自分の頭がずっと高速で回転していたことに、机を離れてから気付く。速度を意図的に落とすのは難しいし、速度が上がっている自覚にも乏しい。時間が経って速度が落ちていく過程で徐々に気付くことになる。

寝ぼけた頭を覚ますにはカフェインを摂ればいいし、急ぎの仕事があれば否応なく対応するから、頭の回転を一気に上げることはできる。そうして上げた回転数を下げることができずに燃え尽きることが度々ある。エンジンに喩えると、焼き付くといえばいいのか。かつて熱中していた自転車では、朝から深夜まで走り続けることが度々あった。疲労は感じるものの体は問題なく動くから、いつまでも走り続けられる。日付が替わった頃に走り終えて、寝袋に入っても眠れない。翌朝は日が昇る頃にまた走り始める。俺はこれを繰り返して暫く心身が不調に陥った。自転車旅行をしない人でも、仕事ならば同様の働き方をする人は多い。

クールダウンの必要性を分かっていても実行は難しい。そもそもスピードを上げずに自転車くらいの速さで(というイメージで)日々を過ごせたなら良いけれど、実際にはどうしても車で急発進と急ブレーキを繰り返すような生活になる。過熱した頭を冷やすのが難しい。たとえば仕事帰りにビールなどを飲んで酩酊するのは一つのクールダウンなのだろう。仕事のあとに家事が控えていると酩酊するわけにもいかず、飲酒ではないクールダウンの方法があるなら知りたい。

冬になれば体が冷えないように着込んで暖房もつけるのに、一方ではクールダウンについて考えるのは、何か矛盾しているというか、より困難なことに思えてくる。窓をあけて冷気を取り込むだけで、過熱した頭を冷やせるのなら良いけれど。