送迎

保育園の送り迎えを始めた頃、子どもはまだ言葉も話せず、つかまって歩けるかどうかという時期だった。夕方、仕事を終えて園へたどり着くと、子どもはベビーフェンスの向こう側で遊んでいる。子どもを抱いて自転車を押しながら自宅まで歩く。子どもはまだ言葉を喋らないかわりに、何かしらの声を挙げていたのか、それとも眠りこけていたのか、僕の記憶にはあまり残っていない。

子どもの体が大きくなり、冬に重ね着をして抱っこひもに収まらなくなると、自転車の前座席とヘルメットを買った。前向きに座らせた子どもの表情は見えないが、時々子どもが振り返って話しかけてくる。いつのまに言葉を喋れるようになったのか、僕の記憶にはあまり残っていない。

さらに体が大きくなり、いつしか前座席にも収まらなくなると、自転車に後座席を取り付けた。子どもの表情は完全に見えなくなったが、子どもはますます元気に喋り、ついには大声で歌うようになった。時々、静かになったなと後ろを振り返ると眠っていたり、または眠ったふりをして、隠しきれずに笑ったりなどしていた。

後座席に収まらない大きさ、にはまだ成長していないが、最近は歩いて帰ることが多くなってきた。僕は通勤用のクロスバイクでそのまま園へ向かい、子どもと手をつないで歩く。しりとりを覚えた子どもに「ぼ」で終わる言葉で攻められて困ったり、手を離して走り始めるので追いかけたり、曲がり角や駐車場出口ではよく注意するようにと教えたりしている。並んで歩いていると、子どもの表情がころころ変わる様子がよく見えて面白い。自転車の座席に座らせていたときも、本当は同じように表情豊かだったのかもしれない。

保育園の送り迎えは残り1年3ヶ月となった。その後はひとりで小学校へ歩いて行くことになる。一緒に過ごす時間が少しづつ減っていくことを寂しいとはあまり思っていない。時々、今と同じように並んで歩く時間があれば、それで十分に楽しいだろうと考えている。